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17話-3 出立。

last update Date de publication: 2025-05-04 20:00:00
* * *

それからしばらくして、湖に辿り着いた。

湖の清澄な水面には美しい花が浮かんでおり、綺麗な蝶が飛び交う神秘的な場所で、

白い小鳥や鹿が水を飲みに来ていた。

言葉に出ないくらいに美しく心奪われ、少しの間、一緒に湖を眺めた後、緑の絨毯のような地面に並んで座る。

すると白兎が近寄ってくる。

「あ、かわいい……あの、ご主人さま、撫でても大丈夫でしょうか?」

「あぁ」

エルバートの許可をもらい、白兎を撫でてみる。

白兎は本で見たことはあった。

けれど、実際に見たのも、撫でたのも初めて。

ふわふわでとても触り心地が良い。

「ご主人さまもどうぞ」

フェリシアは口に出した途端、ハッとする。

(ご主人さまが撫でる訳ないのに……)

「も、申し訳ありません、出過ぎたことを……」

「気にするな」

エルバートはその様に言って白兎を撫で、微笑む。

その顔を見た瞬間、自然と手が伸び、エルバートの頭を撫でる。

するとエルバートは驚き、フェリシアも固まる。

(わたし、今、何を)

ふとエルバートの耳を見ると、赤く染まっていることに気づき、フェリシアもまた自分の頬に熱さを感じた。

「遅くなったが昼飯にするか」

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